西村浩一のホームページ English
略歴 研究紹介 研究業績一覧


研究紹介

雪崩の内部構造と流動機構の解明T−雪崩観測−

雪崩の内部構造と流動機構の解明を目的として
1.黒部峡谷志合谷に映像に加えて雪崩衝撃圧、静圧変動、風速、音、地震動などを測定する雪崩観測施設を設置し、多角的側面から冬季間自然発生する雪崩を観測するとともに、
2.ノルウェーでの人工爆破によるFull-scale雪崩実験でも、志合谷と同様のシステムを用いた測定を行った。その結果、速度が60m/s以上に達する大規模な雪崩について、底面近傍の流れ層内部の速度分布や雪煙部の乱流構造について多くの知見が得られた他、それらが周期的波動つまり秩序構造を持つことなども明らかになった。  

黒部峡谷における雪崩観測
黒部峡谷志合谷における雪崩観測

 

ノルウェーでの人工雪崩実験
ノルウェーでの人工雪崩実験(長さ 2km の斜面を約250 km/h の速度で流れ下る)



雪崩の内部構造と流動機構の解明U−スキージャンプ台を利用した雪崩実験−

  自然条件下での観測の制約を克服するため、スキー競技用ジャンプ台を雪崩実験斜面として利用し、1. 冬季は自然積雪を流下させ、急斜面を流れ下る過程での粒状化・流動化そして堆積という実際の雪崩に見られる全過程を再現する、また2. 無雪期には最大65万個のピンポン球を流下させ、3次元粒子流全体の挙動、形態変化、粒子間の衝突など相互作用に着目した測定を行った。前者は、主に黒部峡谷での雪崩観測等で得られた結果の検討と理解を深める目的で、後者は雪崩を「粒子の集団が重力により、斜面上を空気や底面、それに粒子間で相互作用しながら流れ下る現象」としてとらえたアプローチである。3次元粒子流モデルの構築に不可欠な速度や密度分布構造が測定されたほか、雪崩などの大規模崩壊現象に共通する形態的特徴とその形成過程、さらには一定の波長を持った内部波動の存在が確認された。離散粒子法(DEM)によるピンポン球なだれの3次元数値シミュレーションも併行して実施された。


スキージャンプ台を用いた模擬雪崩実験



雪崩の運動モデルの開発

  これまでに日本で開発された雪崩の運動モデルは、その多くが雪崩全体を平均化し、質点または剛体と見なして記述するものであった。最大到達距離や速度が再現されるよう抵抗係数等のチューニングが進められてきたが、雪崩の高さ、3次元の地形上での広がりの情報が得られないなど、防災上不充分な点が多かった。本研究では、雪崩を連続体として捉え、低温室での実験結果との比較検証にもとづいた運動モデルの開発を実施している。

雪崩の運動モデル
              低温室での雪崩実験(左)と運動モデルの開発(右)

 

雪崩発生予測手法の開発

  ニセコアンヌプリ(1308m)山域を対象に、気象、積雪構造、雪崩観測を実施し、これらの結果とスイスで開発された積雪変質モデル(SNOWPACK)を用いて、雪崩発生予測の可能性について検討を行った。


a: ニセコアンヌプリ(1308m)、b: 積雪断面観測(雪質、密度、雪温などの測定)、c: 気象観測、d: 積雪変質モデルの出力、e: 積雪安定度(雪崩発生危険度)の分布、赤色系は危険度が高い)



地震計と超長波マイクロフォンを用いた雪崩発生モニタリングシステムの開発

  問寒別の北大低温研雪崩観測施設近傍、ニセコアンヌプリ、黒部峡谷をモデル地域に選択し、地震計と超長波マイクロフォンを用いた雪崩発生の広域モニタリングシステムの開発を行った。雪崩発生に伴う地震動は、@特徴的な波形(紡錘形)、またはランニングスペクトルを求めることで地震と区別可能、A5km程度の範囲で発生する雪崩は検知可能であることが明らかになったほか、震動波形を解析することで発生地点と発生規模の推定も可能となった。


雪崩発生時の地震計(左)と超長波マイクロフォン(右)の記録(上)とランニングスペクトル(下)

   

風洞実験による吹雪発生臨界条件と跳躍層内部構造の研究

低温風洞実験により、吹雪発生臨界条件と粒子の跳躍運動の素過程に着目したデータの集積を行った。雪面への衝突と反発のプロセス(Splash function)の摩擦速度依存性と新たに開発したドラッグメータによる雪面に作用する応力の直接測定結果は、他の粒子輸送の研究分野にも貢献する画期的な成果で、吹雪内の応力分布と運動量輸送における粒子と風の寄与に関わる論争に実験的決着を与えるものとなった。また粒子の運動解析と数値計算から跳躍から浮遊にいたる遷移過程についても考察を行った。


低温風洞施設(上左:防災科学技術研究所、上右:スイスの国立雪・雪崩研究所)と風速分布(下左)、吹きだまり形成(下右)の計測

 

南極みずほ基地での吹雪観測と数値モデルの開発

  第41次南極地域観測隊(1999年11月〜2001年3月)に参加し、250km内陸にあるみずほ基地で吹雪観測を実施した。1.広域にわたる平坦な地形のもと吹雪が定常状態まで発達する、2.カタバ風が長時間安定して継続する、3.風洞実験では得られない臨界摩擦速度を大きく上まわる風速が発現するという条件下で、吹雪跳躍層と浮遊層での雪粒子の運動と乱流構造に関する詳細な測定を行った。本成果は、吹雪と境界層内の気象要素の関係、両者の構造変化と自己調節機能、吹雪の発生・終息時の応答特性などに多くの知見をもたらすとともに、粒径分布、風速の乱流項と粒子運動の慣性効果などの吹雪現象を規定する全物理プロセスを考慮した吹雪の「ランダムフライトモデル」の構築に大きく寄与するものとなった。


南極みずほ基地での吹雪観測(第41次南極地域観測隊)

 

吹雪の自動観測システムを用いた南極氷床全域にわたる積雪再配分量の評価

  南極氷床上では,放射冷却によって形成される内陸の冷気が大陸斜面を下る強い斜面下降風(カタバ風)がほぼ年間を通して吹送し,これに伴って発生する地吹雪により大量の積雪が数100kmにわたる規模で連続的に再配分される.この輸送量は南極氷床の質量およびエネルギー収支の重要な要素となるほか,グローバルな気候変動の影響を議論するうえでも重要な鍵とされているが,値の正確な見積もりは依然困難な状況にある.本研究では、申請者等のグループにより現在開発が進められている吹雪自動計測システムを、南極の昭和基地からドームふじ基地に至るルート(約1000km)に加え、フランス、イタリア、英国の各観測拠点に設置する。そして吹雪量を通年にわたって実測することで、南極氷床全域の表面質量収支における積雪再配分と昇華蒸発(凝結)効果を定量的に見積もることを目的としている。     (科学研究費補助金:基盤研究(A)、海外学術、H21-H24)


開発中の吹雪自動計測システム(左:Col du Lac Blanc(フランス)での設置作業、右:南極氷床上に設置されたシステム)

 

フラクタル防雪柵周辺の乱流構造と吹きだまり形成

  最近の流体力学の理論的研究によると、物体背面の乱流強度は物体のフラクタル次元の関数となることが指摘されている。積雪地域では、道路や雪崩の発生域に形成される吹きだまりを軽減する目的で「吹きだまり防止柵」が数多く設置されているが、本研究では上記の理論的考察にもとづき、風洞実験により、柵のフラクタル次元と、柵後方に形成される乱流構造とその強度、エネルギースペクトル密度と散逸、形成される吹きだまりなどの関係を求め、その結果に基づいてこれまでにない新しいタイプの防雪柵を開発することを目的としている。


実験に用いた防雪柵(左、下2つがフラクタル防雪柵)と、風速、乱流構造、吹きだまりの測定

 

氷河湖の形成と拡大機構の研究

  アジア高山地域では、近年の地球温暖化により氷河末端の融解が急激に進み、融け水が15〜19世紀に形成されたモレーンで堰き止められて、氷河上に大きな湖が多数形成されている。モレーンの構造が不安定であるため、大規模な決壊洪水(氷河湖決壊洪水:GLOF)が頻繁に発生し、ネパール、インド、チベット、ブータン、パキスタンなどの地域に多大な被害を与え社会経済開発を阻害する大きな原因となっている。
2009年度には「地球規模課題対応国際科学技術協力事業(JSTとJICAの連携事業)」として、名古屋大学を代表機関とした

「ブータン・ヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」

が採択され、氷河湖の危険度評価、氷河湖拡大メカニズムの検討、決壊洪水発生時の警報システムの立案、ハザードマップの作成に向けた調査・研究が開始された。        


上段:イムジャ氷河(ネパール)に形成された氷河湖(左)、GLOFの氾濫シミュレーション(中)、1994年のGLOFで被害を受けたブータンのプナカ寺院(右)
下段:ブータンでの経済大臣(左)、内務・文化大臣(中央)との会談とキックオフミーティング(右)


最終更新日:2009年9月1日
トップへ       ページ上部へ